54歩目:【観光編―季節性①】〇〇部長、「もうひとつの京都」と「もうひとつの課題」(〇〇に入るものは?)
データ分析と行動力が大事らしい
地方創生担当部長の仲山徳音(なかやま なるね)です。
「知られざる日本の魅力」として、昨年オープンした亀岡市の宿泊施設「離れ にのうみ」が関西テレビ「報道ランナー」に登場した前回。
TV放送をキッカケとした予約や問い合わせも、早速ありました!(にのうみ談)
メディアパワーおそるべし。営業の甲斐あって、予約空白時でも、業界関係者の内覧が増えてきています。
その前回記事の終わりに、京都観光分析シリーズを進めていきますと予告しました。
それでは全2回に分けて、お送りします。
直感や経験をデータで確かめる
そもそも分析を始めた契機は、2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」放映に向け、市内の関係者たちと協議していたときのこと。
「亀岡市の観光は、冬にあまり動かないんですよね」
「放映スタートと合わせてドラマ館の運営を1月スタートとした場合、他の観光素材との組合せを考えたいですね」
といった指摘やアドバイスを意見交換でいただきました。
これってどういうことなのか、「試しに数字で表してみよう」と分析を始めたものがこちらです
ちなみに、データに興味のある方は、「京都府観光入込客数調査」から確認できます。
(グラフ1)
(グラフ2)
山々が並んでいます。その意味を見ていきましょう。
まず、グラフ1(2008年)では、京都府全体の観光客数について、季節ごとの変動が大きかったことが分かります。
例えば、最小の2月と最大の11月では、2倍超の差が開いています。
そもそも「季節による変動(Seasonality)」が大きいと、何が問題でしょうか?
例えば、ビジネスとして考えてみると、
①お客さんがいっぱい来る春~秋のために買った備品や雇った人材、借りたスペースは、冬に持て余し、経費のロスが生じる(Overage Cost)。
②一方、持て余したくないからと必要最小限に絞ると、お客さんがいっぱい来るときに対応できなくなり、「逃がした魚は大きかったかも・・・」ということも(Underage Cost)
①と②をカンで見極めるのは難しく、私が通っていたMBAでは、最適な商品在庫量を見つけるための計算式を使って、必死に問題を解いていました。
もし「季節による変動」がなければ、こうした問題は生じません。
毎日・毎月同じ数だけお客さんが来るのであれば、準備がしやすいということです。交通サービスや観光インフラを担当する行政にとっても同様です。
そのため、「季節による変動」があるかないかは、ビジネスや行政にとって重要なポイントです。
グラフ2(2017年)では、こうした「季節による変動」が、解消されてきたことを示しています。
例えば、最小の2月と最大の4月・11月の差は、2倍未満になっています。
ただし、それは「京都市」によるもの。
京都市を除いたエリア、「もうひとつの京都」全体でみると、「季節による変動」は残っています。
これまでの観光分析シリーズでは、①京都市に比べ、他エリアは観光消費額・観光客数がまだまだ小さいことを見ましたが、
それに加え、②京都市にはない、季節による変動という「もうひとつの課題」があると言えます。
おおきく振りかぶって ボールを・・・
さて、話を亀岡市に戻します。
実際に、観光客数を月別に見てみるとどうなっているでしょうか。
(これも公表されている亀岡市統計書および京都府統計書から作成できます)
(グラフ3)
(グラフ4)
グラフ3(2017年)をみると、亀岡市でも「季節による変動」が非常に大きいことが分かります。
例えば、最小の2月と最大の5月、10月〜11月の差は、6倍前後になっています。
冒頭ご紹介した「亀岡市の観光は、冬にあまり動かないんですよね」という状況は、まさにこのグラフが表しています。
その要因は、どこにあるでしょうか?
グラフ4(2016年)には、亀岡市が誇る三大観光のひとつ、トロッコ列車の集客数も表示しています。
これを見ると明らかに、トロッコの集客数と連動していることが分かります。
月ごとに10万人単位の観光客数を牽引してくるトロッコが、1・2月に運行停止し、集客がゼロとなることが、季節の変動をもたらす最大の要因です。
これまでの観光シリーズでは、データに基づき、亀岡市の課題を次のように分析していました。
〇「トロッコによる日帰り客数の急増」及び「湯の花温泉による宿泊客消費額の大幅増」が観光消費をリードしてきたが、限界に近づきつつある。
(これまでの観光分析シリーズを初回から読む方は下記から)
さらに、今回明らかになった「季節による変動」を加えて、戦略を考えていく必要があると思っています。
既にお客さんが沢山来ている時期はそのまま努力を続けるとして、お客さんが来ていない時期に、どう引っ張ってくるか。
はじめに紹介した「大河ドラマ館の運営を1月スタートとした場合、他の観光素材との組合せを考えたい」というコメントと方向性は似ています。
例えば、トロッコ以外の三大観光である「保津川下り」などは、実は冬季も運行し、集客に努めています。
それでもGWなどのピークに比べれば、やはり冬は圧倒的に客足が落ち込むとのこと。
寒いイメージがあるので、「冬もやっているんですか?」というお客さんも多いとのことですが、お座敷暖房船なので、晩秋より暖かいと感じるかもしれません。
私が亀岡市に着任した昨夏は、台風や大雨で数か月運行されていなかったため、秋・冬にそれぞれ乗船してきました。
夏目漱石も保津川下りを楽しんだ
夏目漱石の小説「虞美人草」でも紹介されたことのある、保津川下り。
櫂は一掻ごとにぎいぎいと鳴る。
岸は二三度うねりを打って、音なき水を、停まる暇なきに、前へ前へと送る。重なる水の蹙(しじま)って行く、頭の上には、山城を屏風と囲う春の山が聳えている。逼りたる水はやむなく山と山の間に入る。帽に照る日の、たちまちに影を失うかと思えば舟は早くも山峡に入る。保津の瀬はこれからである。
秋はまさしく絶景です。紅葉のピークである11月3連休最終日の様子。
地元の方や船頭さんからは、「輝やく新緑の時期にも乗ってみて」とおススメされたことがあるので、春~夏にかけても素晴らしいはずです。
一方、冬は冬で風情を感じます。濃淡で色味を出す水墨画の世界が広がります。
1月後半、雪が積もったのを観て、とけてしまう前に朝イチの船で乗ってきました。
(先に紹介した「季節変動のグラフ」と形が似ている思った方、きっと疲れています)
全長16キロメートルを1時間半かけて、嵯峨嵐山まで下っていきます。
水量が多いときは1時間足らずで行けるとのことなので、乗る時々で、雰囲気が一変します。それもまた味わいがあります。
高低差(50メートル)、全長(16キロメートル)はそれぞれ、モーターなしで進む川下りとしては世界一だそうです。
お客さんをのせる前に、河川敷に船がならんでいる姿は圧巻です。
かつては、川を下った船を船頭さんが曳いて戻ってきたとのこと。
現在は、船頭さんは120名近くおられると聞きました。
息を合わせるため、通年で同じ3人チームで行動をともにします。
3人の船頭さんがそれぞれ操船場所を受けもち、役割分担していきます。
桃栗三年、柿八年以上に長い年月をかけて修行をつみ、3つの操船場所を全てこなせるようになって1人前。
そんなことを教えてもらいながら、舟は急流を下っていきます。
見どころについては、要所要所で船頭さんが解説を加えてくれます。
ネタバレになるので詳細は明かせませんが、例えば、413年前から続く保津川下りですので、曳き舟の「綱」の痕が岩に残っているなど、雄大な自然や歴史を感じさせるポイントが随所にあります。
世界的にも評価され、2009年以降、ミシュラン・グリーンガイドで「一つ星」を獲得。
亀岡市が進める「使い捨てプラスチックごみをなくす」取り組みも、こうした保津川の秀麗さを守る問題提起として、世に投じられたものです。
(1月から大きく進展がありますので、また回を改めてお話しします)。
年間20万人超が訪れますが、やはり冬はお客さんが少ない。保津川下りですら、季節変動と無縁ではないのが観光ビジネスの難しいところ。
観光と関わる飲食業などにも、こうした余波はモロに響いてきます。
ではどうしたら良いのか?
次回は、分析の後編として、「季節による変動」をいかに解消するか、データと事例で、もう少し議論していきたいと思います!
最後までお読みいただきありがとうございました。川を磨く54歩目。
亀岡市役所 地方創生担当部長
仲山徳音(なかやま なるね)
E-mail: nakayama88@city.kameoka.lg.jp
Phone: (0771) 25-5006